確定申告書の数字は人の価値観の集合体です。
納税者は「これでよい」と思って申告をします。
税務署は事実を確認し、誤りを正します。
裁判所は法律と証拠に基づいて判断します。
判例を読むと、納税者の心情と法律のズレが浮かび上がります。
今回取り上げる判決(平成27年11月19日名古屋地裁判決)は、貸倒損失を損金計上する時期が争われた事案です。
原告は平成23年9月期の事業年度においてB社に対する貸付金2201万2407円に係る貸倒損失を損金の額に算入して確定申告をした後、同貸付金の額は1846万3407円であった旨の修正申告をしました。
課税庁は、納税者は遅くとも平成19年9月期に債務者が倒産し行方不明になっていたとして、貸倒損失の損金算入を否認した更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を受けたため、原告はこれら各処分の取消しを求めました。
時系列に事実を並べると
① 平成4年12月1日、甲(原告代表者)は丁を通して当時休眠状態であった原告の経営を実質的に引き継ぎ、B社の未収入金として計上されていた1846万3407円を、仮払金に振り替えた
② B社は、平成10年7月頃には休業状態、平成14年7月頃には、197億6312万1735円の債務超過となっていた
③ 平成19年9月期には倒産し、行方不明となっていた
④ 平成16年9月期から22年9月期の法人税の確定申告書に添付された「貸付金・受取利息の内訳書」には、Bに対する貸付金の記載があった
「担保の内容」欄は次のように記載されていた
平成16年9月期ないし平成18年9月期までのものは「貸付先 多額の債務超過」
平成19年9月期から平成22年9月期までのものは「倒産 行方不明」
⑤ 平成21年頃から、本件債権の回収を一任していた丁と連絡が取れなくなったため、平成23事業年度において債権の全額を回収できないと判断し、貸付金2201万2407円を貸倒損失として損金の額に算入して確定申告をした
⑥ 平成24年10月19日に、貸倒損失として損金の額に算入した金額2201万2407円のうち、354万9 000円は、甲に対する貸付金であり、貸倒れの事実は生じていないから、B社に対する貸付金は1846万3407円として、税務調査に基づき修正申告書を提出した
⑦ 処分行政庁は、平成24年12月26日付けで、原告に対し、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行った
更正処分通知書に更正の理由
「 貸倒損失の損金不算入額 ································· 18,463,407円
貴社は、B株式会社に対する貸付金18,463,407円を、その全額が回収不能であるとして、当事業年度の貸倒損失に計上し損金の額に算入しています。しかしながら、当該貸付金について発生時期、発生原因、内容等が確認できる契約書その他の書類の保存がなく、当該貸付金の回収を依頼したとする丁から請求方法、請求状況等について報告を受けたことを確認できる書類等も一切存在していないことから、当該貸付金はその存在が確認できないものと認められますので、貸倒損失として損金の額に算入されません。したがって、当該金額18,463,407円を当事業年度の所得金額に加算しました。」
【争点 貸倒損失を本件事業年度の損金の額に算入することの可否】
| 納税者の主張 | 裁判所の判断 |
| ・平成元年9月期の確定申告書等に初めてB社に対する未収金が記載されており、売掛金は存在した ・本件債権は、その発生から約20年間継続して貸借対照表及び総勘定元帳に記帳してきた ・平成21年頃から、本件債権の回収を一任していた丁と連絡が取れなくなったため、本件事業年度において本件債権の全額を回収できないと判断し、本件債権に係る貸倒損失を損金の額に算入した ・B社は10年以上前から事業を停止して事実上倒産の状態にあったことを知っていたため、債権を放棄する旨の通知をすることなど思いもよらなかった | B社は、平成14年7月頃には事実上倒産状態にあった もので、原告は、遅くとも平成16年9月期からB社が多額の債務超過に陥っていることを認識し、平成19年9月期にはB社が倒産し、行方不明となった旨を認識していたのであるから、同時点で、本件債権の全額が回収不能であり、本件債権に係る貸倒損失の損金の額への算入が可能であることが客観的に明らかであったと認められる そうすると、仮に本件債権が存在していたとしても、原告が本件債権に係る貸倒損失を損金の額に算入するのであれば、平成19年9月期の損金の額に算入すべきものであって、それより後の事業年度である本件事業年度の損金の額に算入することは認められない |
さらに、原告は、更正処分における理由付記の不備を主張するも、裁判所は淡々と述べます。
①処分行政庁は、本件債権に関する書類等がなく、その請求状況等に関する書類等も一切ないことから、本件債権に係る貸倒損 失は損金の額に算入されないとの理由を本件通知書に付記して本件更正処分をした
②処分行政庁は、本件訴訟において、上記理由と同様の理由に基づき、貸倒損失の不存在について主張したほか「原告は、遅くとも、平成19年9月期にはBが倒産して行方不明となった旨を認識していたことは明らかであるから、本件債権は、本件事業年度において損金の額への算入が可能な貸倒損失ということはできない」旨の本件主張をした
というのであって、本件主張は、本件債権に係る貸倒損失を損金に算入することを否認するものであるという点において、本件通知書記載の更正の理由と基本的に変わはない
根拠条文及び解釈はこちらです。
「ある事業年度において貸倒損失の損金の額への算入が可能であることが客観的に明らかになっている場合には、その貸倒損失は、法人税法22条3項3号にいう「当該事業年度 の損失の額」として、当該事業年度の損金の額に算入すべきものであって、それより後の事業年度の損金の額に算入することは、同条1項が各事業年度ごとに発生した益金の額から損金の額を控除して算定された所得の金額を法人税の課税標準としていることに照らし、認められないというべきである」
つまり、例え、どんな事情があり、原告が思う事実があったとしても、法律にてらしてみて認められない事実を根拠に貸倒損失を損金の額への算入することはできない。
それは利益操作に利用するような処理であり、公正妥当な会計処理の見地から許されない、という視点で数字が見られていることです。
参考;平成27年11月19日名古屋地裁判決税務訴訟資料第265号‐171(順号12754)https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2015/pdf/12754.pdf