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租税心理学NO9 横領されて失うもの

横領は、お金を失い、人を失い、企業にとって大きな痛みを伴う不正行為であり、横領された金額は益金に算入され、追徴され、重加算税まで課されます。

横領の背景にある“心の内側”は外からは見えません。

個人的な事情や欲望から起きる場合もあれば、組織の管理体制の甘さが誘因になる場合もありえます。

今回取り上げる平成23年1月21日金沢地裁判決は、元取締役乙の売上金を除外し、自己の口座に振り込ませていた行為は法人の隠ぺい仮装行為と同視できるかが争われた事案です。

【事案の概要】

課税庁が、原告らの元取締役乙が行った売上金の除外行為について、同売上金は原告らの益金に算入すべきであり、原告らの行為と同視できるとして、法人税並びに消費税等の更正処分及び重加算税の賦課決定処分を行ったため、原告らが、これら各処分の取消しを求めました

【争点1 本件金員を原告らの益金に算入すべきか】

        原告らの主張         裁判所の判断
・本件行為は原告らからすれば不正行為である ・これによって領得された本件金員は原告株式会社には入金されておらず、売上金となっていない ・仮に本件金員が、一旦は原告らの営業収益になったとしても、乙が直ちにその金を横領して領得したものであるから、即原告らに同額の損金が発生したというべきであり、やはり原告らに所得はない      
・原告らは乙が親族でもあり、また刑事事件で刑務所に収監されて返済能力もない。乙に対する損害賠償請求権は経済的にはほとんど無価値であり、原告らは横領された全額について係争年度には損金を生じているというべきであり、係争年度の申告として、所得はなかったのであるから、原告らによる確定申告は正しかったというべきである。  
・和解契約においては、乙が領得した本件口座に入金されたほぼ全額である約2500万円を損害額とし、同金額に含まれる本件金員も原告株式 会社に帰属することを前提としていることが認められる   ・横領行為によって法人の被った損害が、その法人の資産を減少させたものとして同損害を生じた事業年度における損金を構成することは明らかであるが、他面、横領者に対して法人がその被った損害に相当する金額の損害賠償請求権を取得するものである以上、それが法人の資産を増加させたものとして、同じ事業年度における益金を構成し、それが横領行為を行った者の無資力その他の事由によってその実現不能が明白となったときにおいて損金とすべきである ・乙は、原告株式会社に対し、平成19年4月ないし7月に各20万円、同年8月に25万円を、それぞれ弁済している。その後、刑事事件において実刑判決を受け刑務所に収監されていることが認められるものの乙が破産手続開始決定を受けたことを認める証拠もないことからすれば乙に対する損害賠償請求権の全部又は一部の実現不能が明白となったともいえない。

【争点2 原告らの隠蔽仮装行為の有無について】

         原告らの主張         裁判所の判断
・乙は名ばかりの取締役であって、実質は従業員であるところ、原告らの指示に反して横領行為に及んだのであり、不正行為を行ったのは乙である。 ・原告ら代表者には仮装・隠蔽する意思はなく、乙の隠蔽仮装行為を知らなかったし、その点に重大な過失はないから、原告らが自己の所得や取引を隠蔽・仮装したことにはならない。納税者である法人の役員や従業員が隠蔽仮装行為を行った場合、納税者本人が、相当の注意義務を尽くせば、役員や従業員の隠蔽仮装行為を認識することができ、法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたにもかかわらず、納税者においてこれを防止せずに横領行為が行われ、それに基づいて過少申告がされたときには、横領行為を納税者本人の隠蔽仮装行為と同視して、納税者本人に重加算税を賦課することができる。

【一言】

判決文から、原告らは、原告ら代表者がワンマン経営を行う同族会社であって、代表者の甥である乙の直属の上司は原告ら代表者のみ。

乙からの報告や相談は、交通事故があったとき以外はほとんど受けておらず、業務については一切乙に任せていた。

さらに、具体的な内部告発に対しても、きちんとした調査をしていなかったことは証拠から明らかでした。

裏切られた怒り 、信頼していた人への失望 、自分の管理不足への自責 、税務署からの追徴、重加算税への理不尽感…………

経営者の心情は、注意義務を怠ったという一言では片づけられない複雑にからまった感情が透けて見えます。

しかし、仮装隠蔽の行為により所得をごまかす脱税行為は許せない

そういう環境を放置した会社の責任は重いということです。

「横領を防ぐ仕組みを整える」とは、単なるチェック体制などではなく、“人が不正に向かわない組織”をどうつくるかということではないでしょうか。

今回紹介した判決文は平成23年1月21日金沢地裁判決(税務訴訟資料 第261号‐5(順号11595))です。https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2011/pdf/11595.pdf

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