確定申告制度は、納税者が自ら税額を確定させる「申告納税方式」を採用している以上、記載内容の正確性は納税者自身の責任に委ねられています。
今回取り上げる平成30年8月7日釧路地裁判決(※1)は、上場株式等の配当の記載漏れという「うっかりミス」が、裁判にまで発展した事案です。
【事案の概要】
原告は二つの源泉徴収選択口座のうちA証券口座の配当のみを記載し、B証券口座の配当を記載しないまま平成26年分の確定申告書を提出し2498円の還付金を受けました。
その後、記載漏れに気づき、B口座の配当も記載していれば還付金は11万1987円多くもらえたのだから、その分所得税等として過大に納付したことになると主張し、国に不当利得返還を求めました。
【争点 原告が平成26年分の所得税等を過大に納付していると認められるか否か】
| 原告の主張 | 裁判所の判断 |
| 1 本件確定申告について 平成26年分の確定申告の申告内容を誤ったため、所得税11万1987円を納め過ぎている状態にある。 2 更正の請求について 更正の請求はできないと 拒否され、更正請求書の代書も断られた | 1 本件確定申告について ・原告は、平成26年分の所得税等につき、 所定の事項を記載した本件確定申告書を提出して確定申告を行っており、 税率等の計算を経たうえで、原告が納付すべき所得税等の額(2万6494円)が適法に確定したといえる ・原告は本件確定申告書に基づいて計算された上記所得税等の額と源泉徴収税額(2万8992円)との差額(2498円)について還付金を受領しており、確定申告により確定した税額と納付された税額は一致しているといえるから、所得税等について過大に納付しているとは認められない。 2 更正の請求について ・原告が提出した各書面には、通則法23条3項に規定された更正前の課税標準等又は税額等、当該更正後の課税標準等又は税額等など所定の事項の 記載がないことが認められるから、これらをもって、通則法23条の定める更正の請求がされたみることはできない。 ・北見税務署の職員は原告から更正の請求書の代書を求められて拒んでいる ものの、これにより原告の更正の請求を拒否したなどとは到底いえない。また上記認定のやり取りの内容からすれば、北見税務署の職員は、むしろ原告に更正の請求の記載例を渡すな どして、原告の希望に沿うよう対応しているものといえ、原告の更正の請求を拒否したものとは認められない。 3 特段の事情が認められるか ・原告が平成26年分の本件確定申告書 に本件配当等を記載しなかった理由については、高齢となったことからうっかり忘れてしまったためである旨同人も認めているところである。そうすると、本件確定申告書の記載が錯誤に基づくものであることが客観的に明白であるとか、重大な錯誤に該当するとは認め難い。 ・本件確定申告において本件配当等を所得金額から除外するか否かについては納税者である原告の判断に委ねられていること等も踏まえれば、本件確定申告書に本件配当等が記載されていないのは、原告が記載することを失念したにすぎず、本件配当等を除外して申告することを選択したわけではない旨述べていることを考慮しても、更正の請求によらずに本件確定申告書の是正を認めなければ、納税義務 者たる原告の利益を著しく害するとも認め難い。 |
【参考】
・申告納税制度を採用する所得税等の税額は、納税者が確定申告を行うことにより確定するものである(通則法15条、16条1項1号、所得税法120条)
・上場株式等の配当等に関する課税について、措置法8条の5第1項は、同項各号に掲げる配当等に該当するものについて は確定申告の際の所得金額から除外することを認めており、同法37条の11の6第9項は、 複数の源泉徴収選択口座に受け入れられた上場株式等の配当等(源泉徴収選択口座内配当 等)については、各特定口座における源泉徴収選択口座内配当等ごとに確定申告の際の所得 金額から除外するか否かの選択を行うべき旨定めている。 そうすると、源泉徴収選択口座であるB証券口座に受け入れた本件配当等を除外して所得金額を計算することも措置法8条の5第1項の定めにより認められているといえるから、本件確定申告書に本件配当等が記載されていないからといって、本件確定申告が違法であるとか無効となるものではなく、その効力に何ら影響を及ぼすものではない。
・確定申告書の記載内容の過誤の是正については、その錯誤が客観的に 明白かつ重大であって、前記所得税法の定めた方法以外にその是正を許さないならば、納税 義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければ、法定の方法に よらないで記載内容の錯誤を主張することは、許されないというべきである(最高裁昭和39年判決)
【一言】
原告は、高齢となったことからうっかり忘れてしまったため、確定申告時申告内容を誤ったと主張しています。
過去3年分の確定申告には、A証券口座だけでなくB証券口座に係る配当等についても所得金額に含めて確定申告をしていることも確認されています。
B口座の配当を除外して申告することを選択したわけではない、と主張する気持ちもわかります。
しかし、今回の事案の場合、うっかりは法律上の訂正理由になりません。
そのため、原告のB口座の配当を含めた本来の金額に直したい、という主張は、認められませんでした。
法律を知らなくても申告書は作成できます。
税務署は事実を確認し、法律上の誤りがなければ、訂正しません。
裁判所は法律と提出された書面(証拠)に基づいて判断します。
法律を知らなかった
それだけのこと
胸の奥にモヤっとした感情が残る納税者の方も多いのではないでしょうか。
今回紹介した判決文は平成30年8月7日釧路地裁判決(税務訴訟資料 第268号‐70(順号13175))です。
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2018/pdf/13175.pdf