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判例から学ぶ租税心理学(第3回)

従業員分旅行費用の負担は給与等に該当するのか

決算書の数字は人の価値観の集合体です。

納税者は「これでよい」と思って申告をします

税務署は事実を確認し、誤りを正します。

裁判所は法律と証拠に基づいて判断します。

判例を読むと、納税者の価値観がどのように主張として表れ、なぜ認められなかったのかがわかります。

判例は納税者の心理に沿って租税法を学ぶことができる、最良のテキストです。

本稿では、マカオへの2泊3日の慰安旅行の従業員の旅行費用は経済的利益の供与にあたるか否かで争われた判例(平成24年12月25日東京地裁判決)を取り上げ、租税心理の観点から解説します。

【事案の概要】

原告は、基礎杭打工事の請負事業を営む株式会社

課税庁は、従業員らは旅行に係る経済的な利益の供与を受けたとして源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分をした。

原告は、経済的な利益に当たらないので「給与等」の支払に該当しない、源泉徴収義務を負うものではないと主張し取消しを求めた。

≪慰安旅行≫

マカオへ2泊3日

・参加者 原告代表者

原告の従業員10人

外注先の従業員及び一人親方21人

・費用  合計800万円

     従業員 2,413,000円(1人当たり241,300円)

・経理処理 福利厚生費

【課税庁が把握した事実】

・原告代表者は、宿泊先について、一流ホテルに1人1部屋で宿泊することとするという指示をするとともに、食事関係について、全6食を最高の食事とすることとするという指示をしたことなどから、本件旅行の費用は、マカオを渡航先とする一般的な旅行と比べて、割高なものとなった

・原告の従業員のうち、現場作業を担当するもの(本件各従業員)は全員が本件旅行に参加したが、現場作業を担当せず事務所において総務職を担当する女性従業員2人は本件旅行に参加しなかった

・原告は、旅行の代金として合計800万円を支払い

外注先の従業員等21人分の代金に相当する5,067,300円を交際費

本件各従業員10人分の代金に相当する2,413,000円を福利厚生費

原告代表者分の代金に相当する519,700円を役員賞与

として、それぞれ経理処理した

・旅行に参加しなかった上記女性従業員2人に対し、参加 に代えて金銭の支給等がされることはなかった

【納税者(原告)の主張】

・経済的利益でさえあれば、どのようなものであっても、同項の「収入すべき金額」に該当し、課税対象となるわけではない

・本件旅行は、原告の社内において絶対の存在である原告代表者の企画立案の下に行われたものであり、各従業員は、旅行について、参加するか否かの選択、旅程の選択、自由行動の幅といういずれの観点からも自由を与えられていなかった のであって、反射的に利益を受けることはあっても、この利益を自由に処分することはできなかった。

・従業員分旅行費用相当の経済的利益は幸田論文の三つの要件を満たさない

※幸田久「所得税法上の経済的利益について」税務大学校編・税 大研究資料第34号(昭和45年6月)研究科論文集(所得税編)

経済的利益が所得性を有し所得税の課税対象となるためには、次の三つの要件をいずれも満たす必要があると解すべきである

① 人の行為により物権の変動又は債権発生に伴い管理、使用収益及び処分権を取得すること(流入性)

② 流入によって取得した物権又は債権が直接又は間接に生活目的に何らかの役に立つ性質すなわち効用を有すること(価値の保有性)

③ 貨幣数値による 評価の可能なものであること(金銭的評価の可能性)

【裁判所の判断】

・本件旅行は、専ら本件各従業員ほかのレクリエーションのための観光を目的とする慰安旅行であったものであると認めるのが相当である

・各従業員は、その使用者である原告から、雇用契約に基づき原告の指揮命令に服して提供した非独立的な労務の対価として、本件旅行に係る経済的な利益の供与を受けたものであり、原告は、本件各従業員に対し、本件旅行に係る経済的な利益を供与し、所得税法28条1項の「給与等」の支払をしたものであるということができる

・所得税基本通達36-30にいう「役員又は使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると認められる」行事に該当すると認めることはできず、課税の公平に反するということはできない

【一言】

所得税法第36条第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする、と規定されています。

所得税法第28条第1項は、給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう、と規定しています。

給与等とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者等の指揮命令に服して提供した非独立的な労務の対価として受ける給付をいうものであると解されています。

つまり、所得税法第36条1項において、各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額の中には金銭以外の物又は権利その他経済的な利益も含まれるものとしていることによれば、上記「給与等」の給付の形式は金銭の支払には限られず、金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の移転又は供与であっても、それが上記のような労務の対価としてされたものであれば、上記「給与等」の支払に当たるものというべきである。これが、源泉所得税を納税告知処分された理由です。

原告代表者分の代金に相当する519,700円は役員賞与としています。

ここに原告代表者の心情がみえます。

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