事業者が税負担の軽減を目的として、従業員との契約形態を雇用契約から請負契約へと切り替える事例は少なくありません。
しかし、形式上の契約変更だけでは、税務上の取扱いが変わるわけではなく、実態に即して判断されます。
税務調査においては、契約の名目ではなく、その実態に基づいて給与等か否かが判断された事例を紹介します。
令和2年9月1日の東京地方裁判所判決(税務訴訟資料 第270号‐83、順号13443)では、キャバクラを経営する納税者がキャストへの支払いを「報酬」として処理し、仕入税額控除を主張したが、裁判所はこれを認めませんでした。
当該キャストに対して時給制のような支払い方法がとられ、売掛金回収責任を課していたとしても、実態としての労務提供の継続性や指揮監督の実在、また帳簿書類への不記載等から、給与等に該当すると認定されました。
特に同判決においては、売上からキャストへの支払額を控除する経理処理が、帳簿への記載がない点で「事実の隠蔽」とされ、重加算税の対象とされました。
さらに、税務の専門家である税理士による助言を根拠にした主張についても、裁判所はその信憑性を否定しています。
このように、実態が雇用に該当する限り、契約書上で請負と称したとしても、税務上は給与として取り扱われ、源泉徴収義務が発生し、消費税の仕入税額控除の適用も否定される可能性があります。
さらに付け加えると、雇用契約でないから、キャストが確定申告をすればいい、という話ではありません。
キャバクラやナイトクラブ等においてホステスに対する支払は、所得税法第204条第1項第5号において、「ホステス等」に対して支払われる報酬に該当し、源泉徴収の対象とされており、源泉徴収義務が免れるわけではありません。
給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものか
請負契約に基づく支払いは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務か
税務調査では、次の事項から判断していきます。
- 当該契約が他人による代替を容認できるか否か
- 作業の進行において指揮監督が及ぶか否か
- 報酬の危険負担の所在の有無
- コストの負担の有無
契約形態の変更は、税負担の軽減という短期的なメリットを期待するだけではなく、法的・税務的リスクを十分に検討し、業務実態の整備や記録の明確化を徹底することが求められます。