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そもそも論 家事関連費とは

 一見、必要経費じゃないの?と思われるものが、税務調査で認められない場合があります。

特に、法人の調査よりも所得税の調査では、事業と私生活の線引きが難しいところもあり、そもそも論を知っておくことが、判断基準となるのではないかと考えます。

【必要経費として認められる家事関連費とは】

事業所得における必要経費とは、「収入を得るために直接必要な売上原価や販売費、管理費その他費用のこと」で、売上原価、給与、賃金、地代、家賃、減価償却費などがあげられます。

そもそも、家事上の経費は必要経費になりません。

「家事上」とは、個人的な生活に関連する費用のことです。具体的には、家族のための食費や家賃、日用品の購入などの支出のことです。

ただし、支出の「主な部分」が業務を遂行するために直接必要であり、その必要な部分が明確に区分できる場合に限り、必要経費として認められます。

【要件】

① 家事関連費の主たる部分が事業所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費

② 青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事関連費のうち、取引の記録等に基づいて事業所得を生ずべき業務の遂行上直接櫃よであったことが明らかとされる部分の金額に相当する経費

【判例紹介】

接骨院を運営している個人経営者が、柔道整復師の資格を取得するために支払った授業料が必要経費として認められるか否かについて争われた裁判があります(※1,※2)。

【所得税法施行令第96条の法令解釈】

・家事費等は、原則として、個人の担税力を増加させる利得である所得の享受や処分にほかならず、所得を得るために必要な支出ではないため、当該支出を必要経費として控除すべきではない一方で、家事関連費の中には、所得を得るために支出される費用であって、個人の担税力を増加させるものではないため、当該支出を必要経費として控除すべきものがあることから、必要経費に算入すべき費用の範囲について、家事費等という観点から確認的に明記する趣旨のものである(※1)

・居住者が、消費生活を持たず、事業上の行為とは別に私生活上の行為を観念することができない法人とは異なり、私生活上の行為をも行う経済主体であることから、その支出の中には、事業所得を生ずべき業務のためのものだけでなく、一定の経費負担により得た所得を私生活上の消費のために支出する性格のものが混在することを踏まえ、家事費については一律に必要経費に算入することができないものとし、家事関連費については、業務の遂行上必要であることが明確に認定できる部分の金額に限って必要経費に算入することができるものとして、事業所得とは異なる所得により私生活を営む居住者との間で公平な課税がされるように配慮したものと解するのが相当であり、業務の遂行上間接的に必要となる費用等を広く必要経費に算入することができるものと解することはできない(※2)。

【裁判所の判断】

・柔道整復師養成施設である本件学校の課程を修了し、試験に合格して免許を得ることにより、生涯にわたって柔道整復を業として行い、収入を得ることができる業務独占資格を獲得するという人的資本の価値増加を享受したものと考えられ、本件支払額は、当該価値増加を得るための対価として支出されたものという側面が濃厚であるといわざるを得ない(※1)。

・必要経費に算入することができるといえるためには、本件支払額について、本件接骨院に係る業務の遂行上必要である部分を明らかに区分することができること及びその金額、又は取引の記録等に基づいて本件接骨院に係る業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分があること及びその金額を明らかにする必要があるところ、控訴人はいずれについても具体的な主張立証をしていない(※2)。

【補足】

国税庁の使命に「内国税の適正かつ公平な賦課及び徴収の実現」が掲げられていますが、ここでいう公平な課税とは「担税力に応じて課された税」ということです。

そして、担税力を表すものが「所得」です。当然のことながら、所得を計算するにあたり、経費が増えれば所得は減ります。

つまり、間接的に必要なものまで必要経費としないことが公平な課税となる、これが必要経費に入れるかどうかの判断基準になっています。

もちろん、事案所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であったことが明らかとされる証拠の保存も必要となります。

【参考】

※1 第一審・大阪地裁令和元年10月25日判決 税務訴訟資料 第269号-107(順号13330)

※2 令和2年5月22日大阪高裁判決 税務訴訟資料 第270号‐48(順号13408)

国税庁HP「必要経費の知識」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2210.htm

国税庁HP「家事関連費(第1号関係)」

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/07/01.htm

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