私が熊本国税局に勤務していた時も転勤イコール転居の場合はかなりのお金が出ていっていました。それをわかって就職したとはいえ、それが嫌で辞めていった人も少なからずいました。
それぞれに事情を抱えていますが、仕事の内容も場所も望み通りになるなんて思ってもいないし、何を優先するかによって選択肢も異なります。
人不足の中で、雇用を確保し、気持ちよく働いてもらうために、お金をどう使いますか?
誰かを優遇すると不公平不平等が生まれ、公平でない、という理由で課税するしくみにどう対応していきますか?
赴任旅費や借上社宅が従業員や役員の給与所得の収入に該当するとされた事例(平成21年2月19日福岡地裁判決 第259号-32(順号11145))から検証してみましょう。
【赴任旅費に含まれていいた費用】
赴任する本人の交通費及び宿泊料のほかに、転居先で発生した新たな賃貸借契約に伴う敷金、礼金、保証金、入居の際の仲介手数料及び退去により解約した賃貸借契約の違約金、従業員等の子女が転学に要した費用、すなわち、幼稚園から高校までの入園・入学料、施設費、制服制帽代、指定教材費など
【赴任旅費を負担した背景と人格がみえる主張】
・全国に店舗を展開している法人で経営戦略上、 年に一度、従業員等の店舗間での定期異動を行っている。従業員等にとっては、2、3年に一度の異動となる。
・本人の意思に関係なく、原告の指示によって転居を余儀なくされる。
・従業員等の中に、転任する者と転任しない者とがいて、転任する者は経済的な損失を被る・借上社宅の場合は従業員等の給与所得として課税されないのに、従業員等が賃貸人から直接住宅を賃借し、その支払分の支給を受ける場合はする場合は、給与所得として課税されるのは、課税平等の原則に反している。
・法人契約の社宅制度から個人契約の社宅制度に変更したのは、従業員等の個人的利益を増大させる目的ではなく、業務効率の目的のためである。
【関係法令等】
所得税法第9条第1項第4号では、給与所得を有する者が転任に伴う転居のための旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるものについては、所得税を課さないと規定しています。
所得税基本通達9-3は、非課税とされる金品に該当するかどうかの判断に当たって、次に掲げる事項を勘案するものとしています。
- その支給額が、その支給をする使用者等の役員及び使用人のすべてを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか
- その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか
【事実】
・旅費規程には、赴任後に居住する住居の条件に関する限定はない
・旅費規程では、本件転居費及び本件転学費それぞれについて上限支給額が定められているが、上限支給額の範囲内であれば支給する定めとなっている
【裁判所の判断】
上記の事実により、各従業員等がどのような条件の住居を選択するかによって金額が大きく変動するし、転学費の各費用も、従業員等の子女がどのような学校を選択するかによって金額が大きく変動することから、支給をする使用者等の役員及び使用人のすべてを通じて適正 なバランスが保たれている基準によって計算されたものではないので、非課税とされる旅費に該当しない。